「3D空間の大空をシミュレーター系挙動で飛び回れるゲームが、今から約30年前に発売されて48万本売れている」
と言ったら、知らない方はびっくりするのでは?
今回はそんな画期的な作品を紹介します。
もくじ
どういうゲーム?
スカイスポーツ・シミュレーション
飛行機、スカイダイビングといった大空を飛ぶスポーツを楽しめる、スカイスポーツ・シミュレーションゲーム。
1990/12/21発売。
スーパーファミコン本体発売は1990/11/21。
そのちょうど1ヶ月後、ほぼロンチタイトル(本体同時発売ソフト)です。
ロンチタイトル2本の「スーパーマリオワールド」「F-ZERO」が強すぎて影に隠れた感があります。同日発売の「グラディウスIII」も強敵でした。
発売当時、自分はたぶん幼稚園児だったので、当時のゲーム業界をとりまく状況を知っているわけではありませんが…
まあどう見ても、3作と比べると地味です。
国内売上本数は約48万本、世界累計約114万本。
「人気シリーズのナンバリングが20万本売れたらOK」な今どきの基準で見ると、大ヒットしています。
しかしマリオワールドの国内約355万本、世界累計約2061万本に比べると売上も地味です。
見た目と売上は地味でも中身は凄い。
横スクロールアクションの代名詞のようなマリオ、派手なレースゲームのF-ZERO、アレンジ移植とはいえ当時最先端のSTGであるグラディウスIIIは、人気シリーズや既存ジャンルの進化を知らしめた作品。
対して本作は、既存ジャンルにとらわれないシミュレーター系ゲームの先駆けのような作品。
疑似3D表現が画期的。プレイすると慣性などの影響を受けるリアルな挙動も画期的、かつ面白い。
「新ハードではこんなことができる」と、スーパーファミコンの可能性を見せつけると同時に、ゲームの新たな可能性まで提示しました。
ほぼロンチタイトルにも関わらず、スーパーファミコンの回転・拡大・縮小機能をフル活用。
どういう技術なのか詳しいことはわかりませんが、いろんな技術を組み合わせて2Dグラフィックで3D空間を表現しています。
見た目の表現だけなく、3D空間の立体的な動きをゲーム性にがっつり取り入れているのが凄いところ。
慣性や揚力を表現した動きは、「グランツーリスモ」「エアロダンシング」などシュミュレーター系ゲームの先駆けといえます。
本作を1995年ぐらいに、友達の家でプレイして斬新な内容に衝撃を受けたのを覚えています。
こんなゲームがあったのかと。しかも5年前に世に出ていたなんて信じられない気持ちでした。
スーファミの擬似3Dレースゲームといえば?↓
粗いグラフィックのせいで距離感がわかりにくいのが絶妙にもどかしい。
ここで運ゲーとしか思えなくて実際にコントローラーを投げてしまうのはクソゲーです。
でも本作は、
「あと1mmじゃねーか!クソォ!もう一回やってやる!」
と何度もプレイしてしまう中毒性があります。
なにかしらコツがあるんじゃないか、次は上手くいくはず、と思わせる調整が上手い。
激しさはないのに妙に耳に残るBGMも魅力的。
吹奏楽器のような音色とベースが効いている優雅なBGMは、清々しい空を舞台にしたスカイスポーツにぴったり。
BGMを手がけたのは、近藤浩治さんと岡素世さん。
近藤浩治さんはマリオ、ゼルダの伝説シリーズの音楽で有名。
手がけた「スーパーマリオブラザーズ」のステージ曲は、世界でもっとも有名なゲーム音楽といわれています。
岡素世さんは「シムシティー」「スーパーマリオカート」が有名です。
その出来が良すぎて、岡素世さんが手がけていないシリーズ続編のBGMは「なんか違う」と一部のファンに不評。
任天堂2大巨頭のコラボ
プロデューサーは、あの宮本茂さんと横井軍平さん。
任天堂2大巨頭のコラボで実現した作品です。
宮本茂さんは「マリオ」「ゼルダ」その他ヒット作多数の生みの親として有名。
現在は任天堂の代表取締役フェロー。
横井軍平さんは「ゲームボーイ」「十字キー」などを生み出した伝説の開発者。
ゲーム会社として任天堂を成長させた立役者であり、宮本茂さんの師匠的存在です。
「枯れた技術の水平思考」という格言というか哲学が有名。
既存の技術を新しい使い方で応用し画期的な商品を生み出す哲学は、幾多のクリエイターに影響を与えています。
1997年10月4日、自動車の追突事故に巻き込まれて他界。享年56歳。
4種+αのスカイスポーツ
テーマは「空を楽しむ」
戦闘機で敵軍とドンパチするのではなく、「フライトクラブ」という教習所に入って試験を受けていく形。
説明書もフライトクラブの紹介パンフみたいになっています。
4つのエリアでスカイスポーツの訓練をこなし、合格を目指します。
4エリアそれぞれに教官がいるのですが、みんな良いキャラでギャグ演出あり。ほのぼのとした雰囲気で進行。
各スポーツごとのスコアが、
リングやバーをくぐった数、滞空時間、着地精度などから100点満点で採点されます。
合計得点がエリアの規定点を上回ると合格。次のエリアへ。
規定点数を上回った時点で合格になり、他のスポーツはキャンセルになります。
ライトプレーン
レシプロ複葉機で、基地の周りを飛んでから着陸。
ライトプレーンといっても表現の限界で動きは硬く、宙返りとかアクロバティックな飛行はできません。指定されたラインをなぞるのみ。
ですが、揚力を表現しているのでスピードを上げると上昇、スピードを落とすと降下していく感覚がリアルでやり込みがいがあります。
着陸するとき、速度が速すぎると大破して失敗扱い。
結構いけそうな感じでも大破してしまうので、長いフライトから着地するときの一瞬が最大の勝負どころ。
スカイダイビング
空中のリングをくぐりながら降下し、ある程度まで落下したらパラシュートを展開、地上ターゲットへ無事着地を目指します。
落下中、姿勢制御で落下速度と軌道を調整するのですが、操作と動きのタイムラグが大きく慣性が強烈。コントロールが絶妙に難しいです。
ビュウビュウと風切り音に臨場感があり、この簡素なグラフィックなのに落下してる感じが出てるのが凄いところ。
パラシュートを開かずに落下すると当然ですが失敗になります。
猛スピードで地面に激突したとき、地面にできる人型の穴は有名。
いやいや、こうはならないだろうと。どんだけ体硬いんだと。
テーテーテテッテー♪という情けない音楽が鳴り、ダメ押しで教官に「わざとやってませんか。」と厳しく怒られます。
リング通過を失敗して、もうターゲット中央に着地してもスコアが伸びない…
そんなときにも逆転の手段があります。それが「ボーナスターゲット」への着地。
ボーナスターゲットは、プールや海上を高速で移動するターゲット。
スカイダイビングとロケットベルトだけに用意されています。
ここに着地すれば問答無用で100点満点ゲット。さらにボーナスステージに移行してボーナス得点獲得のチャンス。
うまくいけばなんと合計150点!
軽く2種目分稼げるので、合格が一気に近づきます。
ボーナスステージでは、
ペンギンの着ぐるみを着て高度300mからプールに飛び込んだり、カモメのような翼をつけてトランポリンで大ジャンプして足場をわたったりと、スカイスポーツの域を超えた超人的な競技でボーナス得点を狙います。
変な着ぐるみで謎のゲームが始まるので、ルールを初見で理解するのは困難。しかも一切説明なし。
でも軽くコツをつかめば、20点ぐらいは安定するのでおいしいです。
失敗しても100点満点は確定してるのでノーリスク。
まあ、ボーナスターゲットに着地するのが相当難しいので、これぐらいのリターンがないと割にあいません。
ロケットベルト
本作ならではの、3次元の立体的な動きと慣性の影響をフルに楽しめる種目です。
誰もが一度は夢見た空中飛行ガジェット、ロケットエンジンのバックパックを背負って飛行。強・弱噴射を使い分けてリングかポールにタッチしていきます。
上昇下降、高度の維持がしやすいので、ボーナスターゲットにしつこくトライ可能。
スカイダイビングよりは狙えるかも。
ハンググライダー
上昇気流に乗って規定高度に達した後、ターゲットへの着地を目指します。
ゆったりとした操作感と優雅な音楽が心地いいけど、個人的には一番の難関。
スピードと飛距離の調整が難しくて、気づいたときには着地点に戻れず手遅れ。
しかもハンググライダーが脆いので着地もシビアです。
極秘指令→EXPERT、そして疑惑のエンディングへ
極秘指令
エリア4をクリアした後、極秘指令が発令されます。
それまでのエリア紹介ではなく、真っ赤な画面に攻撃用ヘリコプターのシルエットが。
いままでの「空を楽しむ」雰囲気が一変、物々しい雰囲気になりどうしたことかと戸惑っているところに、サングラスを外した黒田教官が突拍子もないことを言い始めます。
黒田が言うには、他の教官3人がフライト中に麻薬シンジケートに捕ったらしい。
なんとか脱出してヘリポートで救助を待っているので、単身ヘリで突入して救出してくれとのこと。
さっきまで見習いパイロットだったし、ヘリの講習を受けた覚えもないので断ると、
「お前はそれでも空の男か!」「麻薬シンジケートの奴らなど怖くはないだろう!」と怒られます。
いやいや、空の男とか関係ないから。そういうつもりで教習受けてたわけじゃないし。
と思い、再び拒否すると「お前が行け」という選択肢が出現。
もちろん秒でその選択肢を選びますが、なんと黒田は単車の免許しか持っていないから行けないらしい。
で、しぶしぶ引き受けると攻撃用ヘリに乗ってヘリポートからスタート。
離陸後、ぱっと見ゼビウスみたいな縦スクロールSTGが始まります。
ヘリだけあって挙動は安定感抜群。
一撃被弾でゲームオーバーですが、敵の砲撃はまばらなので余裕でかわせます。
「これは楽勝だな。クリアしたプレイヤーへのご褒美的なミニゲームなんだろう」
と思っていると…
ヘリポートが敵基地のど真ん中じゃねーか!
ターゲットのヘリポート周辺で砲撃の密度が格段にアップ。しかもグラフィックが表示されない隠し砲台多数。
明らかに本気で落としにきてます。
ぱっと見ゼビウスでも、360°移動・視点回転できる上に高度が絡むので強制縦スクロールSTGとは全然違うゲームです。
弾を避けようにも三次元的に飛んでくるので弾道は予測不能。しかも射撃精度が高い。
一方、こちらの攻撃にはホーミング性能が無いし、斜め下へ直線的に爆撃する感じなので非常に当てづらい。
高度を調節して軌道を合わせて砲台を撃破していくのですが、スピードを落としてちんたらしてると敵の砲撃であっという間に撃ち落とされます。
STGの腕がどうこうというより、トライ&エラーでルートを組み立てる死にゲーです。
あぶねぇー!
全砲台撃破できもしない限り、何度も着地にトライしてるヒマはありません。いくときはいくしかないです。
ところがリポートの周りにいやらしく池が設置してあり、落ちると当然ゲームオーバー。
せっかくここまできたのに、あと一歩で池に落ちると泣けます。
EXPERT
極秘指令をクリアすると、青い空と海を描いていたタイトル画面が夕焼けの町を見下ろす構図に変化。
いわゆる2周目の「EXPERT」に進めます。
EXPERTでは全エリアが高難度化。
ルートが難しくなる上、天候悪化に伴うやっかいなギミックを追加。
1周目のエリア1にあたるエリア5がさっそく難しいです。
強風であおられ、滑走路には乗ると飛行機が大破する雪が。
グラフィック的に雪が積もってるように見えないため、初見では白線を踏んで急に大破したようで意味不明です。
その後も、大雨・強風、夜間で視界不良など厄介なシチュエーション。さらに、地上スレスレを飛ばされたり、通過が難しいリングなど難易度がアップした飛行ルートが続きます。
疑惑のエンディング
EXPERTの最後であるエリア8クリア後、
2週目のヘリミッション「極秘指令2」が始まります。
今度は政府の要人である黒田の兄が、前回と同じ組織に拉致されたらしい。
黒田も開き直って「もうわかっているだろうが」とメタ的なことを言ってます。
兄なんだから今度こそ黒田に行ってほしいところですが、やはり黒田は単車の免許しか持っていないのでしぶしぶ出撃。
今回は夜間の作戦です。
ヘリのサーチライトと、敵砲台やヘリポートの光が頼り。
とはいえ夜間でも重要な場所はしっかり見えるし、元々隠し砲台は見えないのでプレイに影響はないです。むしろ見やすいかも。
問題は、砲台の数が1周目の2倍になっていることです。
完全に弾幕ゲーに出てくるような要塞と化しています。
中途半端に蹴散らしてから中央に突入しても、砲撃の嵐にさらされてまず着陸できません。
周囲から丁寧に砲台潰していくけど、数が多すぎてキリが無い。
で、ちんたらやってるとやはり撃墜されてしまいます。
1周目をはるかに超える死にゲーです。
またぎりっぎりで成功!
苦労してクリアした後、ようやくエンディング。
主人公の授賞式が描かれますが、なんだか様子がオカシイ。雰囲気が完全にミリタリー。
空を楽しむ教習所「フライトクラブ」の面影すらありません。
参列者は教官3名込みで全員軍服。
勇ましいマーチの中、歩む主人公。最後は黒田教官に敬礼して「完」。
「フライトクラブ」とは教習所に見せかけた軍事養成施設だったのでは?
という疑問が残ります。
空を楽しむつもりで入会したプレイヤーにとってはショッキングな結末。
「こんなはずじゃなかった」「ダマされた」感があります。
ゲーム開始時に表示される「フライトクラブ 入会案内」も、クリア後に見ると最後の「…。」がなんだか意味深。
まとめ
1990年、スーファミ発売とほぼ同時発売で、
3D空間をフルに活用した表現と、スカイポーツシミュレーションという画期的なコンセプトを実現しているのが驚きです。
しかもプレイするとゲームとして文句なしに面白い。
教官キャラの味付けや、失敗演出のギャグ要素、エンディングの謎展開もアクセントとして効いています。
ぱっと見地味なので、プレイしないと良さがわからないのが残念なところ。
これパイロットウイングスじゃね?↓