ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃 <東宝名作Blu-rayセレクション>
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低予算を突き詰めた設定
■あらすじ
いじめられっ子の小学生・三木一郎は、両親が共働きの鍵っ子。
一郎の楽しみは空想の中で怪獣島に行きゴジラ達に会うこと。
怪獣島でミニラと出会った一郎は、いじめっ子怪獣ガバラを同名のガキ大将に重ね合わせ、自分と同じ境遇のミニラを応援する。
一方、現実世界では三千万円強奪犯の免許書を拾ってしまい犯人に追われることに。
犯人は免許書を取り返すついでに一郎を人質に取ろうと企てる。
公開:1969/12/20
「ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃」の怪獣シーンはなんとすべて空想。ファンタジックな作品。
現実世界を描いているので本作の世界に怪獣は存在しません。
空想なのにこのタイトルの大風呂敷広げっぷりは笑う。
タイトルだけでなくポスターの盛りっぷりも凄い。
シリーズ最後にするつもりだった前作「怪獣総進撃」が予想を少し上回ってヒットしたので、無理やり制作続行した1本目。
・人間ドラマは限られた登場人物と狭い範囲で展開
主な登場人物は子供と数人のオッサンでヒロイン無し。
・特撮部分は使い回し
予算を大きく減らされているのでガバラ以外の特撮シーンは使い回し。
どこかで見たようなシーンの連続。
このようにドラマ・特撮の両方で低予算を突き詰めた設定。
とはいえ、空想なので特撮シーン使い回しには必然性があったりする。
作品として良いか悪いかは別として、なんとも都合の良い設定を考えたなーと感心します。
完全に子供向けの内容ですが社会風刺も忘れていません。
当時社会的な話題だった「公害問題」「鍵っ子」「児童誘拐」をテーマにしています。
外にいるならともかく自宅で誘拐されるってヤバい。昭和の治安どうなってんだ。
うす汚い雰囲気がいかにも昭和って感じです。
・交通量が多いのに歩道が無い道路
・いかにもヤバそうな廃墟
さらに、舞台は川崎市。
1969年の川崎市は大型コンビナートと道路網で公害問題が大変なことになっています。
いじめっ子達は工業排水まみれの海で釣りしてるけど大丈夫か?
昭和の光景を目の当たりにして
「こんな時代があったから我々が安心して暮らせる今がある」
ことを実感しました。
公害問題は次作「ゴジラ対ヘドラ」につながります。
イチロー君の空想癖に引く
想像力がぶっ飛びすぎ!
主人公イチロー君はいじめられっ子で鍵っ子。
両親には愛されていますが共働き夫婦でともに夜まで働いておりイチロー君は家に1人ぼっち。
その友達も両親もいない寂しさを空想で埋めるため、ヒマさえあれば目をつぶって妄想の世界に入ろうとします。
怪獣島に行く飛行機内からやたらリアルで早くも空想の域を超えてる。
そんなイチロー君のリアルすぎる空想世界と、現実の強奪事件が交互に展開します。
空想に出てくる「怪獣島」。
ここをゴジラが住処にしているのは、以降の昭和シリーズ共通設定となります。
てかゾルゲル島だろこれ。
空想なのでミニラが普通に喋ったり巨大化(小型化)します。
ミニラは完全に女性の声。オバQとかドラえもんみたいな中性的イメージでしょうか。
それにしても相変わらず不細工ですね。どこを見てるかわからない視線も不気味。
初登場の怪獣ガバラ。
ゴジラ作品では本作のみの登場です。ってことはイチロー君の空想オリジナル怪獣ってことですよね。この空想力、もうヤバい領域なのでは。
「カエルが突然変異した怪獣」らしいけどカエル要素ゼロでただの鬼みたいになってるのが笑う。
イチロー君から見たいじめっ子はこんなイメージなのでしょうね。
ミニラは体格で圧倒するガバラですがゴジラに歯向かったのが運の尽き。ボコボコにされて一本背負い!
その様子を見たイチロー君は
「ぎっちょんガバラ、ぎっちょんガバラ、イエーイ!」
と調子に乗ってます。
「ぎっちょん」の意味を調べたけどよくわからりませんでした。
いい気味、みたいな意味かな?
健全に見えない
一見ハートフルな話なのですが、イチロー君が健全に見えないのですっきり観れません。
いくら空想でもゴジラが戦闘機を撃破して「バンザーイ」ってイチロー君…
(一応補足しておくと、武装組織「赤イ竹」の戦闘機という設定なので悪い奴ら)
後半はイチロー君の空想癖がエスカレート。
最初は自作の玩具で「ごっこ遊び」をして、寝ているときにも夢で観る程度でした。
しかし最終的には誘拐されてる真っ最中に、
「ミニラだ、ミニラ。ミニラが危ないんだ」
と目をつぶるだけで空想世界に入ってしまいます。
それを強奪事件の犯人に「おい、起きろ!」と起こされる始末。
そのうち空想と現実の区別がつかなくなってきたのか、現実世界での危険行動が目立つようになります。
空想の出来事をヒントにして廃墟に落とし穴を作るのですが、これが落ちたら足骨折では済まないぐらい危険なもの。
映画のラスト、イチロー君は「ガバラの意地悪なんて大嫌いだ!」といじめっ子グループの仲間に入るのを拒否。
その直後に看板屋に意地悪して逃げていきます。意味がわからん。
看板屋の顔に有機溶剤のペンキをぶっかけて「やったぜベイビー!」と言って走り去り、「謝っておいて」と仕事中の親に謝らせます。
高い脚立から落ちた上に顔面に有機溶剤ペンキを被ってるのでけっこうな事故。
「やったぜベイビー」とか言ってる場合じゃないし、親が謝って済むレベルでもない。
下手すると何百~千万の慰謝料になるぞ。
こんなぶっとんだイチロー君には最後まで好感が持てませんでした。
当時の価値観だと、子供はこれぐらい活発な方が良いって感じなのかも。
あと外に放置した車に札束を放置しそれを発見されて通報されてしまう犯人はマヌケすぎます。
まとめ
テーマが公害や共働きといった社会問題へ移り、ゴジラは飾り。普通に喋るミニラ。
空想の力で凶悪犯に立ち向かう子供は健全なのか?
マジメに観るとなんだかモヤモヤする作品。
突っ込みどころ満載なので、良作を期待せず斜めから目線で突っ込みながら鑑賞しましょう。
主題歌「怪獣マーチ」の歌詞が凄いです。ゴーゴーゴジラは放射能♪って。
歌のメッセージを大まかにいうと「ゴジラ達より公害をまき散らす人間の方が本当の怪獣だ」。
ってことで、公害問題を真正面から描く次作「ゴジラ対ヘドラ」につながります。