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公害問題を描く怪作
■あらすじ
海洋汚染が進む駿河湾でオタマジャクシような生物が見つかる。
近海ではタンカーが謎の生き物に襲われるという怪事件も相次いでいた。
海洋生物学者の矢野は調査へ出かけるが、海底で謎の生物に襲われて重傷を負う。
謎の生物は「汚れた海から生まれた怪獣」なのでヘドラと命名された。
ヘドラは工場の排煙を求めて上陸。そこへゴジラが出現し、2体は激戦を繰り広げるが決着がつかない。
ヘドラは成長を続け、硫酸ミストによる被害が拡大。深刻な社会問題となる。
矢野がヘドラを倒す方法を思いついた頃、ゴジラを超えるほど巨大化したヘドラが富士山麓に出現。
そこにゴジラ現れ最終決戦が始まる。
公開:1971/7/24
「ゴジラ対ヘドラ」はゴジラ映画史上最も作家性が強いと言われる作品。
社会的メッセージを前面に出しています。
ゴジラ映画の枠を超えた表現はまるでウルトラマンの1エピソードを観ているかのよう。
個人的に「戦いたくない怪獣ナンバーワン」だと思う怪獣、ヘドラが登場します。
「水銀、コバルト、カドミウム~♪」
といきなり気持ち悪い映像とサイケデリックな主題歌「かえせ!太陽を」(麻里圭子/ハニーナイツ)から始まります。
歌詞にバナジウム、オキシダンとか出てくるのはこの曲だけでしょう。
この段階でかなり面白いので、興味無い方もとりあえず冒頭だけ観てください。
途中にも変なポエムやアニメが挿入されます。これがまた気持ち悪い仕上がり。
映画の最後、葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」が一瞬だけ映る謎演出も不気味。
最恐怪獣ヘドラ
コイツなんなんだよ…こんな奴に勝てるわけねーよ…
美味しそうに排気ガスや車を食べるヘドラ。何を考えているのかわからないのが恐い。
自分がゴジラなら、戦いたくない怪獣ナンバーワンはぶっちぎりでヘドラです。
ヘドラ以前に、ヘドロが怖いです。
実際に生魚の死骸を使っててグロい。臭いが伝わってきます。
ヘドロの赤みがかったところって魚の死骸なんですね。キモい…
このヘドロに触れたら即死。ヘドラが上空を通ればヘドロが気化した硫酸ミストで下の人は白骨死体になります。
(ご安心ください。ヘドロをかぶったネコちゃんはなぜか平気です。たぶんワンちゃんも平気です。)
ゴジラとの対決では、夜とスモッグで暗い中なんだかヌルヌルとしたメリハリ無い戦いが繰り広げられます。
ゴジラは左目を潰され、左手白骨化、喉をやられてボロボロ。
弱ったところをヘドロで生き埋めにされる地獄みたいな戦い。
人間側の動きもメリハリが無い。
酸素爆弾は全く効果なし。電極板作戦は準備が間に合わないわ、ヒューズは飛ぶわでグダグダ。
電極板でようやくヘドラを仕留めたかと思いきや、乾燥したのは表面のみで乾燥を免れた中身部分が逃走。
コイツ、湿ってる部分は生きてるんですよ。中身が逃走する演出はヘドラの不気味さが良く出ています。
そのヘドラを追うとき、ゴジラが飛びます!
逃げるヘドラをとっ捕まえてまた電極板に連れ帰り電撃おかわりを食らわす展開は、ゴジラも制作者もやけくそ感があります。
ラスト、ゴジラがぶち切れる決着シーンは衝撃的。
「クソっ!こんな地球にしやがって!青空をかえせ!太陽をかえせ!」
って感じのやるせない気持ちが伝わってきます。
割り切った低予算の演出が光る
極限の低予算で制作された作品で、制作期間はたったの5週間。
そのため全体的に低予算臭が目立ちます。
それを逆手に取った、割り切った演出が今観ると新鮮。
説明的シーンをばっさりカットし、やりたいことだけに集中しています。
例えば、
・研究者の親父が海で襲われて重症を負うシーンが、静かな海面を映すだけ
何が起こったのか全くわかりません。
親父が凄い権力を持っており、「よし、この巨大なやつを作れば。自衛隊に電話を」というだけで一大作戦が開始されるのも謎。
・ヘドラ出現演出が、テレビニュースで「ヘドラが出現しました」だけ
被害者1千万人超え、ゴジラ史上屈指の大被害もさらっと言うだけです。
「沿岸警備の陸上自衛隊は集中砲火を浴びせましたがヘドラの体を突き抜けて効果なく被害甚大であります!」
とか、状況は全てアナウンサーの台詞で説明。
・ゴジラ出現シーンは、ジェットコースターに乗った子供がゴジラの影をちらっと見るだけ
上陸の予兆とか、出現にともなう地響きとか何も無い。
心霊現象のような現れ方が不気味です。
・朝焼け(夕焼けにしか見えない)を背景にゴジラが帰っていくカットは、ゴジラの顔だけを映すアングルで全く特撮する気がない
他にも、
・登場人物が少ない。可愛いヒロインがいない
・100万人ゴーゴーに集まったのが100人だけ。
昔のゴジラ映画なら意地でも100万人集まった画を撮るはず。
ちなみに、草むらから覗く亡霊みたいな人達はただの地元住民らしい。いかにも意味ありげで紛らわしい!
以上のように、怪獣映画を超えた表現のオンパレード。
この低予算臭によって終末的な寂しい雰囲気が出ています。
贅沢な予算で作ったらこの味は出ません!
まとめ
当時の評判はボロカスだったようですが、今観ると全ゴジラ映画の中でも振り切った作風がキラリと光ります。
昭和ゴジラがマンネリを極め、低予算もいくところまでいったからこそ生まれた作品。
「初代ゴジラにあったメッセージ性を取り戻す」という意味では原点回帰といえるのかもしれません。
当時の空気を味わう上でオススメの一作。