ゴジラ(昭和29年度作品) <東宝Blu-ray名作セレクション>
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次作:ゴジラの逆襲
戦争の記憶が残る、原点にして最恐のゴジラ
■あらすじ
太平洋上で船の遭難事故が相次いでいた。
同じ頃、大戸島で謎の巨大生物によって島が荒らされ多数の犠牲者が出た。
政府が派遣した調査団は島で巨大な怪獣を目撃する。
それは大戸島近海の海底に潜んでいた太古の怪獣。水爆実験により目を覚ましたと推測され、島の言い伝え「呉爾羅」にちなみゴジラと命名された。
ゴジラは東京を襲撃。
鉄条網による電撃や通常兵器で迎撃するも、人類の攻撃は無力で為す術なく東京は焦土と化した。
芹沢博士が密かに開発していた「オキシジェンデストロイヤー」はゴジラを倒し得るかもしれない。しかしそれは悪用されればゴジラ以上の災厄になる可能性があった。
そのため芹沢はオキシジェンデストロイヤーを使うことをためらうが、被災者たちの悲痛な姿とかつての恋人の懇願で心を動かされる。
公開:1954/11/03
「ゴジラ」はもはや説明不要。
ゴジラシリーズの第1作。娯楽特撮の原点です。
観客動員数961万人の大ヒット。
ゴジラシリーズの原点と言いましたが、
・シリーズ最恐のおどろおどろしさ
・人間のリアクションが生々しい
この特徴を持つ初代は原点にして別格です。
シリーズとは切り離して語れる作品。
シリーズ最恐のおどろおどろしさ
初代ゴジラはシリーズ最恐のおどろおどろしいゴジラ。
ゴジラの咆哮と足音に乗せて手書きの白黒スタッフロールが流れるオープニングが既に恐い!
咆哮音は音がバリバリと割れるぐらい甲高い音で腹の底から響きます。
東京に上陸しても粗い白黒画面ということもあり姿がはっきり見えません。まるで黒いオバケ。
さらに動きがぎこちないのが恐い。
初代ゴジラの着ぐるみは鉄の骨組みに分厚いゴムで総重量100kg以上。
そのため生物学的で自然な動きとは違うキモい動き。これが異様な重量感と迫力になっています。
これは今どきのフルカラー、最新GC、HD画質、高音質では逆にどう頑張っても出せない恐さ。
この山から顔をぬっと出す初登場シーンの恐ろしさよ。
徹底して視点を人間目線に統一しているため、カメラはゴジラを見上げ、ゴジラは黒々とした塊に浮かぶギョロ目で人間を見下ろしています。
このギョロ目は初代ならではのもので、歴代でもダントツ恐い顔。
電波塔の破壊シーンなんて落下する人の視点が映ります。これはジェットコースター、VR的な恐怖。
この主観視点はショッキングすぎるのか、2作目以降では無くなりました。
ゴジラ登場までのお膳立てもしっかりしており、田舎ならではのおどろおどろしい雰囲気で登場前からビビらせてきます。
大戸島のジジイが
「おい!昔からの言い伝えをバカにするとお前たち尼っ子をゴジラの餌食にしなきゃなんねーぞ!」
とビビらせたり、
「昔は、長くシケの続くときには若けぇ娘っ子生贄にして遠ーい沖へ流したもんだぁ」
とさらっととんでもないこと言ってます。
つまり、初代ゴジラは生物というよりオバケの類なんです。
山根博士の説明によるとゴジラは水爆の影響で変異した生物とのことですが、結局のところ生物なのか何なのかよくわかりません。
だから物理攻撃では倒せない。電流攻撃や戦闘機のロケット弾を受けても一切怯みません。ノーダメ。
そのため現実にはない超兵器で倒すしかないわけです。
このオバケ感が初代ゴジラの底知れない魅力といえます。
50mの最小ゴジラですが、低い建物しかないので相対的にシリーズ最大のゴジラに見えます。
当時は50mゴジラの膝下ぐらいの建物しかありません。
木造建築が多いから火炎による火災も恐怖。
調べたところ、1954年当時は「百尺規制」というものがありました。
百尺規制とは、1920~1960年代まで六大都市(東京・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸)のビルの高さを百尺(約30m)に規制した法律(特例あり)。
1954年で30mを超えるビルは大阪第一生命ビル、東急会館、国会議事堂だけです。
劇中で印象的な銀座和光ビルも、ビル部分は100尺ギリの高さ。
ちなみに東京タワーの着工 は1957年なので、本作には登場しません。
百尺規制により、当時のデカい建物といえばビルより何より鉄塔。
鉄塔を使った有刺鉄条網の5万ボルト高電圧攻撃が最強の攻撃手段として登場します。
今ではピンときませんが、当時としては何よりもデカい鉄塔を使った攻撃が最終手段ってことに説得力があるわけです。
人間のリアクションが生々しい
ここまでゴジラの造形・破壊描写の恐さについて話をしてきました。
しかし本作において本当に恐いのは、逃げ惑う人の描写です。
みんな本気で恐怖の対象から逃げているんですよ。必死さ、真剣さが伝わってきます。
これが「初代ゴジラには戦争の記憶が残っている」といわれる所以。
演者はゴジラの作品としても一度も見たことがないので、イメージを掴みにくかったらしいのです。
姿が見えないからこそゴジラに戦争の恐怖を重ね合わせていたのではないでしょうか。
だからゴジラのイメージが確立した2作目以降とはリアクションの質が違うのだと思います。
まず遭難した船員の家族は対策室に押しかけて
「せめて生存者があるとかなんとかぐらいの見通しはつかないんですか!」
と抗議するシーンから迫力が違います。
こういう描写はシリーズの他作品にはないもの。
大戸島でゴジラに家を潰され「おかあちゃーん!」と泣き叫ぶ少年は、演技としてはクドいぐらい必死。
ゴジラに襲われた東京で逃げ遅れた母子家庭の母親は
「お父さんの元へ行くのよ、ねぇもうすぐ、もうすぐお父さんの元へ行くのよ」
と台詞が生々しい。
おそらく10年前に戦死したお父さんを思い起こしている描写がリアルすぎます。
散々街を破壊したあと海に去っていくゴジラを見て少年が叫ぶ「ちくしょう、ちくしょう!」も響きます。
戦争で味わった「俺達の日本をこんなにしやがって、ちくしょう」という心の叫びなのでしょう。
ゴジラが通った跡の焼け野原はまるで原爆投下後。
その後の救急シーンもリアルで、戦時中の映像を観ているような臨場感があります。
被災した子供にガイガーカウンターをあてた博士が「この子はもうダメだ」みたいな表情をするのが残酷。
ここまで原爆被害を直球で表現したのは初代だけです。
余談ですが、
本作は原水爆の恐怖を知らしめたと同時に、「放射性物質が放射線を出す」という現象を「放射能」とザックリ言ってしまったことで日本国民に誤解を与えた弊害もあります。
以上のように、ゴジラに戦争の恐怖を重ね合わせた演者のリアクションや演出に戦後ならではのリアルが込められています。
これはゴジラのイメージが定着した2作目以降とは全く質の違うもので、恐怖の対象である初代ゴジラをシリーズでも別格の存在にしています。
その他
ゴジラのテーマやフリゲートマーチなど、伊福部サウンドはやはり最高。
伊福部昭さんいわく、
「近くの幼稚園から聞こえてくる音楽が虚脱した旋律ばかりで、こんな教育してたら子供はダメになると考えていたところ、ちょうど子供が『ゴジラ』なんかをみる年頃だったので、それじゃあひとつと、かなり真面目にやりました」
(wikipediaより)
やはりシビれる音楽を作る人は、発言もシビれますね。
当時は吉田茂内閣や政治への不信感が高まっていたらしく、ゴジラが国会議事堂を破壊したシーンでは観客が立ち上がって拍手したのだとか。
その時代の空気を背負っているのか、国会で政権を問い詰める女性議員(菅井きん)が熱い、熱すぎる!
「(ゴジラが水爆実験の落し子であることを)軽々しく公表すべきでない」という大山委員に対し、
「なにをいうか!重大なだからこそ公表すべきだ!」
「馬鹿者!なにを言っとるか!!」
ともうめちゃくちゃです。
罵声が飛びかう国会には山根博士もウンザリ。
初代のヒロインは河内桃子さん。
ゴジラヒロインは初代から抜群に美しいですね。
美しいから芹沢博士もつい秘密を漏らして、結果日本は救われます。美しさは正義。
オキシジェン・デストロイヤーの話をされた芹沢博士(平田昭彦)が
「なんだオキシジェン・デストロイヤーって、僕には全然わからんね!」
と動揺しすぎてバレバレなのは笑う。
眼帯をつけていかにも怪しい芹沢博士がマッドサイエンティスト枠ですが、一番狂ってるのは山根博士という気もします。
学術的観点からゴジラの保護が必要との持論を展開しゴジラを倒そうとする主人公達と対立。
「あのゴジラは世界中の学者が誰一人として見ていない、日本だけに現れた貴重な研究資料だ」
とまるで日本に現れたのがラッキーみたいに言っちゃいます。
いやいや、ゴジラを生け捕りにする方法があるなら教えて欲しいですよ。
山根博士は人命より研究の方が大事なのか?
まとめ
戦争体験の記憶や当時の空気が乗った初代ゴジラは、ゴジラ映画の中でも別格。
原点にして最恐のゴジラです。
全くゼロから生み出されたわけではなく、アメリカの「原子怪獣現わる」(1953年)から影響を受けていることは知られています。
しかし、終戦から9年でこんなの作るんだからそりゃ世界も驚くわ。