アクションや対戦ゲームのようにせわしない操作のゲームで疲れると、真逆のアドベンチャーゲーム(以下、ADV)にどっぷり浸かりたくなります。
「シュタゲ」「428 〜封鎖された渋谷で〜」のようなヒット作を除けば、最近は昔ながらのADV作品をあまり見かけません。
2D絵のADVは「ライフイズストレンジ」のようなフル3D・ADVや、「龍が如く」「ラスアズ」のようなドラマ重視のゲームに吸収されて日陰の存在になりました。
そこで、過去にさかのぼって調べてたどり着いたのが本作。
サスペンス物らしいけど、パッケージは女の子と青空で爽やか。
ぱっと見ではギャルゲーなのか何なのかよくわかりません。
一体どういうゲームなんだ?と不安を抱きながらプレイしました。
記事はネタバレ最小限にしたつもりです。
多少の漏れはあるけど、タイトル「ダブルキャスト」で既にネタバレしているので気にしない。
ちなみにダブルキャストの一般的な意味は「一人二役」です。
PSP版でプレイ。内容はPS版とほぼ同じ。
もくじ
ダブルキャストってどんなゲーム?
「やるドラ」シリーズ第一弾
■あらすじ
主人公は映画研究会(映研)に所属する大学生。
飲み会で泥酔して街をさまよっていたとき、赤坂美月という少女に出会う。
記憶が無いという美月は行くあてもないのでしばらく主人公と同居することに。
そんな中、映研で自主制作映画を作ることになり、主人公が推薦した美月がヒロインに起用される。
以降、美月の周辺に不穏な空気が漂い始める。
「見るドラマからやるドラマへ」がキャッチフレーズの「やるドラ」シリーズ第一弾。1998/6/25発売。
プレイヤーは選択肢を選ぶのみ。
選択肢によって展開が変化し、各エンディングに分岐します。
「やるドラ」ならではの特徴は、一般的なADVの「立ち絵+会話ウィンドウ」ではなくフルアニメーションで動くこと。さらに台詞はフルボイス。
アニメはプロダクションIG制作で質が高いです。
初見1周じっくり遊んで1時間半、ずっとアニメ&フルボイス。
大容量が売りのCD-ROMメディアならではのゲームです。
「やるドラ」シリーズは、
・ダブルキャスト
・季節を抱きしめて
・サンパギータ
・雪割りの花
・スキャンダル
・BLOOD THE LAST VAMPIRE
と続きます。
「雪割りの花」までは四季がモチーフの4部作。
本作のテーマは、春夏秋冬の「夏」。
春夏秋冬なのに「夏」が第一弾なのは、本作の方が「万人向け」だと判断されたからなんだとか。
本作の作風を一言でいうと夏×ラブコメ×サスペンスホラー。
万人向けというだけあり、全体的に明るく楽しい雰囲気です。
ちなみに、4部作は元々「記憶喪失」がテーマのオムニバス※だったので、4部作のヒロインはみんな記憶喪失です。
(※独立したストーリーを並べて、全体で一つの作品にする形式。)
グッドエンド・ノーマルエンド・バッドエンドの3種類がそれぞれ複数あります。
バッドは未解決クリア、ノーマルエンドは番外編にあたります。
本編中にほとんどヒントが無い上、選択肢も曖昧。
そのため初見はバットエンド直行です。
ヒロインと2人仲良く終わっても、真実がわからないままだとバット扱い。
その意味はグッドエンドを見ればわかります。
ヒロインを大事にしないと当然バットエンドになるけど、かといって大事にする選択肢を選べば良いってものでもないのがミソ。
バッドエンドになると筋肉キャラがヒントを教えてくれます。
でも内容が大ざっぱ。2人のうち1人は「うむ、その通り!」しか言ってくれないのがもどかしい。
「信頼できる者の協力が不可欠」はまだわかるとして、「世の中そんなに甘くない」といわれても「?」です。
「世の中、いきなり美少女と同棲できるほど甘くない」ってことでしょうか。
バッドエンドを2回見ると、グッドエンド(ベストエンドの次)フラグが立つ選択肢に印がつくヒント機能が使えます。
印つき選択肢を選ぶだけの味気ないプレイになるので、もう少しさり気なく教えてほしい気が。
ボクッ娘ヒロイン
ヒロインの美月は記憶喪失で元気な「ボクッ娘」。(一人称がボク)
ギャルゲーで必ず1人はいるタイプだけど、メインヒロインとしては斬新です。
ボクッ娘は伏線なので必然性はあります。
僕はこの手のタイプに馴染みがないので、最初は「男が転生した人」だと勘違い。「ダブルキャストってそういう意味なのか?」と戸惑いました。
「機動戦艦ナデシコ」で有名な後藤圭二さんによるキャラデザインは、圧倒的な華やかさ&可愛さです。眩しいほどに可愛い。
しかも食事の栄養も気にしてくれる、家事もしっかりこなす良い娘。
キャベツの千切りとか上手いし、もう完璧なんだけど…
「ボクは~」と喋るのに体型と服装はおもいっきり美少女なのがアンバランスでたまらんっす。
この丈の短さで、キュロットではなくスカートという神ファッション!
ちなみにプレステはセガサターンよりアダルト描写の規制が厳しいのでパンチラ禁止です。でも本作は完全にパンチラしています。
トラウマゲー?
本作はトラウマゲーとして有名です。
画像検索したらエグいのばかり出てくる。
(ネタバレするからプレイ予定の方は検索しない方が良い)
実際のところ、トラウマ要素は終盤の特定ルートのみ。
楽しい中に怖さが見え隠れする感じです。
序盤、いきなり同棲生活が始まる展開で面食らいました。
ラノベなら「俺と記憶喪失の美少女が同棲できるはずがない!」みたいなタイトルになりそう。
冷静に考えると、身分証明どうするんだろうとか気になります。
そもそも、こんな娘が寄ってきたら新手のぼったくりだと思うので僕なら無視して逃げる。
でもゲームなので細かいことは無視。
ラブコメっぽい明るい雰囲気で美少女と同棲できます。
油断すると本作がサスペンス物であることを忘れます。
美少女と仲良くなって楽しい青春生活を送るようになれば、記憶喪失のことすら忘れそう。
そんな楽しいラブコメ生活の中、どこか不穏な空気が漂っている。
妙に包丁が強調されてたり美月の様子が変になったり、伏線が所々に仕込んであります。
実は主人公が美月と親密になることが真犯人出現の鍵なので、ラブコメにも意味があります。
中盤からシリアスなサスペンス調に移行します。
次に何が起こるのか予想できない緊張感があり、画面に釘付け。
後半はバイオレンス&ショッキングな展開になります。
ラブコメっぽい序盤とのギャップで、類似する作品が思いつかないほど陰と陽のコントラストが激しい。
そのため後半のインパクトは強烈。たぶん一生忘れられない思い出になります。
フルアニメーションの弊害
制作リソースが足りない?
序盤~中盤の、明るいノリがだんだんシリアスに転換する流れは引き込まれます。
でも後半が急展開。インパクトは強烈だけど雑な気がします。
終わり方もあっさりで「これで終わり?」みたいな感じ。
「急展開だからこそインパクトがある」ともいえるし、サスペンス物には急展開がつきものです。
でも本作の場合、主人公が急に覚醒して独り歩きし始める。急展開というより超展開に感じます。
いつの間にか主人公の推理が始まり、他キャラ全員の全面協力により大規模な仕掛けが始まります。
この超展開にはついていけない。プレイヤーの分身だった主人公が遠くにいってしまい没入感が無くなります。
主人公が急に覚醒したように見えるのは、中盤→後半をつなぐ主人公の心情変化の描写が抜けているため。
「昔の美月を知る人が現れる→過去を探る→もしや…」みたいなシーンが無いので、戸惑っているだけの主人公がいきなり覚醒してぶっ飛んだ推理を展開しているように見えます。
プレイヤー自身が推理して3択から選び、主人公がぶっ飛んだ推理で真犯人を暴き出す展開は「かまいたちの夜」を彷彿とさせます。
でも、かまいたちの夜とは状況が違う。
かまいたちの夜は、吹雪の山荘という閉鎖的状況に殺人犯が潜んでいるため、登場人物を疑うのは必然です。
いつやられるかわからない危機感もあるので、多少ムチャでも犯人を特定する必要がある。
だから主人公が推理を始める展開にも説得力があります。
対して本作の場合、推理の前にやるべきことが色々ある気がする。
「とりあえず警察に届けるべきでは?」「まず病院で診断を」と思っちゃう。
犯人を特定するだけでは終わらない複雑な事情なので、解決までのハードルも高い。
それら色々気になる点をすっ飛ばして一気に解決に持っていくので、頭がついていけません。
殺人未遂事件の後、「最後どうなったか」「その後、どうやって普通の生活に戻ったのか」は数行のテキストで終わり。消化不良で物足りないです。
というより、解決した気がしません。また事件が起きる気がします。
詳しく解説してる他サイトを見ればわかるように、ちゃんと読み込めば深いシナリオです。
でもゲーム中の描写が足りないので、シナリオを理解するには急展開の合間を考察で補う必要があります。
記憶喪失の少女といきなり同棲が始まる導入部分や後半の急展開は、普通のADVなら順を追って丹念に描くところが簡略化・カットされている印象です。
フルアニメの関係で制作リソースが足りなかったのだと思います。
一枚絵&テキストで済むところをフルアニメにしてるから、そりゃ制作は大変。
一枚絵&テキストなら最悪一人でも作れるけど、アニメ制作の手間は桁違い。
しかもこのクオリティなので展開を端々まで描くのはムリです。シナリオの総量も限られるから分岐も減ります。
フルアニメとADVゲームの相性
ダブルキャストは名作です。
でも現在、同じようなフルアニメのゲームは主流ではありません。
理由は前述の、制作リソース問題があると思います。
それ以上にプレイして感じたのは、フルアニメと周回プレイ前提のADVの相性がいまいち。
アニメを作る労力と効果が見合っていません。
エンディング分岐を探って達成率を上げる過程は、選択肢の総当たりで選んでいく作業。
2周目以降はボイス・アニメをスキップする人がほとんどだと思います。
結果、フルアニメを満喫できるのはバットエンド直行の初見プレイだけ。
そのわりに、制作リソースの限界で分岐とシナリオは減る。
フルアニメの導入は、ゲームとしてはデメリットの方が大きいと思いました。
まとめ:一周1時間半に盛りすぎ
一周1時間半に盛りすぎな作品。
フルボイス・フルアニメ。
記憶喪失のボクっ娘美少女と同棲。
ラブコメにサスペンス、ときにバイオレンス。
美味しい要素を詰め込んだ迫力で記憶に残るゲームです。
ADVとしてはフルアニメが足かせになっている面もあります。
でもプレイした1時間半、美月と過ごす夏は忘れられない思い出になるはず。
サクッと濃厚な体験がしたい方にオススメです。