リマスターとはいえ元は15年前の作品。「初見で思い出補正がない人間が、山のようにハイクオリティな作品が世に出ている今プレイして正直どうなの?」って部分に注目しながらPS2の名作「ANUBIS」を初プレイ。
もくじ
「ANUBIS Z.O.E M∀RS」とは
4K・VR対応でPS4に登場
SFロボットゲーム「ZONE OF THE ENDERS(Z.O.E.)」 の続編。
メタルギアシリーズを手がける小島秀夫氏プロデュースでも注目を集めたシリーズ。
PS2版は2003/2/13発売。
ロボット兵器「オービタルフレーム(OF)」を駆り、常時浮遊しながら多種多様な攻撃を撃ちまくるハイスピード3Dアクション。
前作はグラフィック、BGM、アクションでは高評価を受けながら、冗長なストーリーと少ないボリュームで全体的には不評の声が大きかった。続編「ANUBIS」ではその不満点を解消し、良かった部分はさらにパワーアップ。
PS4版の「M∀RS」は、PS3のHDリマスター版「ZONE OF THE ENDERS HD EDITION」を4K解像度&VR対応にしたもの。
ちなみにPS3のHD版はリリース直後、出来の悪さで話題になり、9ヵ月後のパッチで神修正されて再び話題になったいわくつき。もちろんPS4版は修正後がベースなのでご安心を。
ストーリー
22世紀、人類はエネルギー源の鉱物「メタトロン」の発見により木星圏まで居住域を広げた。
人々は自分よりも外の宙域に住む人間を「エンダー(田舎者)」と呼んで差別するようになった。その風潮が、地球圏を中心とする「連合宇宙軍」と、火星を中心にする軍事組織「バフラム」の紛争へ発展。
戦力に優る連合軍への対抗手段として、バフラムは新型機動兵器「オービタルフレーム(OF)」を開発。連合軍の旧式兵器「LEV(レヴ)」ではOFにまるで歯が立たず劣勢を強いられる。
連合軍は木星圏のコロニー・アンティリアを武装占拠し、バフラムの新型OF「アヌビス」「ジェフティ」の2機を奪取。この2機は、バフラムの指導者ノウマン大佐が進める「アーマーン計画」の要になる機体。バフラムはすぐに奪回部隊を派遣し、アンティリア全域を巻き込んだ戦闘になる。
アヌビスはバフラムに奪回されるが、偶然乗り込んだ民間人の少年「レオ・ステンバック」の活躍でジェフティはジェフアンティリアを脱出し連合軍の手に残った。
連合軍の目論みは、独立型戦闘支援ユニット「ADA(エイダ)」に自爆プログラムを書き込んでアーマーンに送り込み、内部から破壊すること。しかし火星圏はバフラムに掌握されていたため、連合軍は火星への侵入は不可能と判断。ジェフティを木星圏に向けて投棄し隠した。
(ここまでが前作)
2年後、木星衛星・カリスト。
元バフラム軍人の採掘作業員「ディンゴ・イーグリッド」はカリストの地表で妙なメタトロン反応を探知。そこにあったのはジェフティだった。直後、突然バフラムの無差別攻撃を受け、仲間を守るためジェフティに乗り込むディンゴ。
アヌビスとジェフティ、ノウマンとディンゴ。火星圏を舞台に最後の戦いが始まる。
ややこしそうな設定とは裏腹に、テンポが良くてわかりやすいシナリオ。
前作の主人公との対決・共闘やディンゴの恩師ロイドとの再開など、アニメ的な「お約束」をしっかり踏まえた、終始テンションが高い熱血路線。
名言を連発する魅力的なキャラ
個性豊かなキャラ達はいずれも人気がある。
端役のキャラまでワイプからはみ出そうなほどアクが強くて濃い。
「ケン・マリネリス」
ナイスバディーなヒロイン。ときにムチャをするおてんば娘。
ディンゴ「そこを通せ!」
ケン「はいだらー!」
このセリフが「ANUBIS」最大の迷言として有名。「やらせるかー!」ぐらいのノリで唐突に発せられる意味不明な造語はかつてない衝撃。しかもゲーム終盤ならともかく冒頭のシーン。プレイ開始すぐ「???」となったプレイヤーは数知れず。ANUBISといえば「はいだらー!」がまっさきに思い浮かぶほどの強い印象を残した。
調べたところ、意味は特にないらしい。
脚本家の村田周陽氏いわく、気がつけば脳内でケンが「はいだらー!」と叫んでいたんだとか。
胸を強調するためだけに作られたようなデザインのパイロットスーツ。背面も恥ずかしいことになってる。
「ADA」
ジェフティに搭載されたAI。秘書の女性のように冷静だが、ときには「とっとと片付けましょう」といったユニークな返しがあったりして面白い。PS4版はコントローラーから声が出るので臨場感が倍増。
ディンゴ「戦闘用コンピューターか。LEVのナビゲーターよりは頼りになりそうだな」
ADA「一緒にしないでください」
ディンゴ「お前は惚れた男に合わせるタイプだな」
ADA「理解不能です」
神オープニング
このオープニング見たら買うでしょ、普通。
OP・EDテーマ「Beyond the Bounds」は作業中、通勤・通学中に数え切れないぐらい聞いた。「INFORMATION HIGH」(マクロスプラスの挿入曲)と同じぐらいテンションが上がる。
オープニングはこの曲をフルで使用。圧倒的な密度とスピード感で7分が一瞬に感じる。
曲のフィンランド語のスキャット(早口)部分をバックに展開されるアクションシーンは鳥肌が止まらない。本編の魅力を7分間に圧縮したような迫力。
正直、本編の3割増ぐらいになってる。
格好いいグラフィック&デザイン
元はPS2のゲームで、15年前の2003年発売。いくら4Kといっても元がPS2なので、グラフィックの変化は元の解像度の2倍ぐらいで頭打ち。てか2倍を超えるとペラペラ感が強調されて逆効果だと思う。
しかし格好いい「画作り」は見ごたえ十分。
カメラワークが独特で、寄ったり引いたり、自キャラの真横から映したり正対するときもある。普通のアクションゲームなら位置関係がわからなくなってゲームにならないような仕様だが、本作はハイスピード戦闘を前提にした操作システムとカメラワークがしっかりマッチしているので問題なく動かせる。
グリグリと絶え間なく動く画面にホーミングレーザーなど様々な光が飛び交う。爆煙エフェクトは2D表現を取り入れた「Z.O.E.シェード」で綺麗。
「荒野乱戦」では41機の味方と共に1000機近い敵OF集団を突破。右上レーダーの赤い点が全て敵。
これ、本当にPS2のゲーム?今でもここまで突き抜けたロボゲーは他に思いつかない。
メカニックデザインは「メタルギアソリッド」でおなじみの新川洋司氏。
メタルギアRAYを彷彿とさせる複雑なパーツの重なり、幾何学的なモールドが特徴的。
河森正治、カトキハジメ系とはまた違うスタイリッシュなデザイン。
ファンネルや極太ビームなど、武装ギミックはロボゲーの王道を押さえている。
ゲストとして「悪魔絵師」こと金子一馬氏が疑似OF「インヘルト」のデザインを担当。ロボット、生身、悪魔がミックスされたような独特の姿。
シームレスにつながるムービーとデモシーンも見どころ。ムービーアニメ制作は「GONZO」。
デモシーンはスロー、止め、残像といった表現手法を活かしたメタルギアばりのゴージャスな演出。
アクション→「未確認浮遊快感」
ダッシュ、上下移動、ロックオンで3D空間を立体的に動きまくる。
攻撃手段は、斬る、掴む、投げる、エネルギー弾、レーザーなど豊富。
近・遠距離攻撃が自動切り替えの簡単操作。テキトー連打でもそれっぽい立ち回りになる。
さらにストーリー進行に応じて10種類以上の豊富なサブウェポンを入手。
とても全部は使いこなせないけど、クリアするだけなら気に入ったものだけ使えばOKなバランス。明らかに強いのもあれば「これは使いづらいな」と思うようなのもあり、全部に出番があるわけでもないが、色々できるのは楽しい。
自分はひたすらガントレットを撃ちまくってた。
「ゼロシフト」で相手の背後に瞬間移動。消費エネルギー無しで使い放題なのでザコ相手ならやりたい放題。
ゼロシフト入手は終盤。入手後はそれまで一方的にボコボコにされるだけだったアヌビスとも互角に戦えるようになる。「ジェフティとアヌビスは同等」と言われて「どこがやねん!」と思っていたが、最後は納得できる。
同等って聞いてたのに話が違うぜ!
ボリューム→初見で6時間クリア
初見、難易度ノーマルで約6時間でクリア。ボリュームは少なめ。
おまけ要素は色々あるけど、あくまでもオマケな内容だったので割愛。
細かい話は熱さでふっ飛ばす、ノリ重視でスピード感のあるシナリオは良かった。
最後はウルっときた。30歳過ぎてから涙もろくなったような気がする。
とはいえ、ちょっと気になることも。
ノウマンはなぜケンを泳がせていたんだろう。結果的に宿敵ジェフティに攻め込まれただけなので、ノウマンにとってメリットが何も無い。それともケンの裏切りに気づいていなかったんだろうか。だとしたらちょっとマヌケすぎる。どちらにしろ腑に落ちない。
ケンがノウマンに内緒で2ヶ月もかけてディンゴを蘇生し、ジェフティに乗せる序盤の展開から相当ムリがある。連邦軍のスパイじゃなくても、隙だらけなケンの立ち回りならすぐバレそう。
本作最高の熱さを誇る「荒野乱戦」前のデモでは、あれだけ反抗的だった連邦軍がディンゴの熱いセリフで「よしジェフティに続けー!」と態度が急変。本でいうと数十ページ読み飛ばしたような感じの超展開についていけない。その後の「荒野乱戦」もノリきれなかった。
気になる点
縛りが強くて意外と不自由
せっかくハイスピードで自由に動きまくるのが楽しい操作システムなのに、自由度の低いプレイを強いられるステージが多い。
結局のところ、オープニングからチュートリアルがわりの最初のボス「アージェイト」戦までが一番楽しかったような気がする。
「バフラム艦内」のような狭い場所の探索や防衛・運搬ステージはハイスピードバトルが前提の挙動と相性が悪くてイライラ。レバーちょん押しでカメラはグルンと動くし、挙動はガクガクで細かい調整が難しい。やっぱり開放的な空間で眼の前の敵をなぎ倒してナンボのゲーム。
攻撃・回避を繰り返す戦闘の展開はハイスピードだが、実は移動速度は異様にもっさりでカメラ移動ももっさり。ダッシュしても、ダッシュしてるのかどうかわからないぐらい遅いため、戦闘の合間に入る移動するだけの場面がダルい。
ロックオンの仕様はマジでどうにかならんのか。あるターゲットを狙いたい場合も、敵の数が多すぎてターゲット変更してもピコピコピコとなかなかロックできない。正面にとらえてからロックオンしても、なぜかロックがあらぬ方向に飛んでいくのでイライラ。もうターゲット変更SEだけでストレスが溜まるぐらいウンザリ。
「バシリア仲裁」のような防衛ステージでは味方までロックして攻撃してしまう。ロックはともかく、攻撃しちゃダメだろ。エイダは敵・味方の認識もできないのか?
ダッシュとバースト入力が被ってるのも困る。この乱戦でいちいちレバーニュートラルにするのは面倒。しかもバースト攻撃は隙がデカいわりに使い勝手が悪い。遠距離バーストを使うヒマがあったらサブウェポンを撃った方が良いし、近距離バーストは敵の眼の前でで動きを止めることになるのでリスキーすぎる。高難易度なら出番があるんだろうか。
ケンの指示に従って進む「エアーズクリフ」。悪評で必ず名前があがるステージ。
指示のテンポが異様に遅くてイライラ。単純にアクションゲームとしてつまらないし、こんなのは「ANUBIS」でやる意味が無いと思う。
ボス戦は特殊な攻略必須の初見殺しばかり。
「敵の攻撃をかいくぐって攻撃!」みたいな力と力の対決ではなく、トライ&エラーで敵の行動パターンの穴を探す。常に受け身の戦いなので爽快感は無い。
基本的に攻撃が通るチャンスは限られており、それ以外は全ての攻撃をガードされる。チャンスが来るまで「物陰に隠れる、オブジェクトを掴んでガード、左・右・ガードのQTE」みたいな行動で耐えしのぐのみ。
何度も戦うことになる「ネフティス」。
攻略法に毎回なんらかの仕掛けがあり、最後の戦いでは目押しを4回連続で成功させる必要がある。1回失敗するだけで長い行動パターンのループをもう1回。
ゼロシフト入手前のアヌビス戦は負けイベント。ラストも遠距離攻撃が一切通じない。
魅力的なグラフィックに対してSEが物足りない。攻撃を当てた、被弾した実感がない。当たったのかガードされたのかもわからないし、気がついたら自分のHPがゴリゴリ減ってる。いちいち大迫力SEを出すとウザいことになるから配慮したのかもしれないけど、刺激的なグラフィックに対して音の印象があまりにも薄い。
まとめ
探索、運搬、防衛、ステルス、といった縛りの強い要素をふんだんに取り入れたステージ構成は、ハイスピード戦闘に特化した操作性と相性が悪い。そのため1周たったの数時間なのに2週目をやろうと思えない。「1周クリアしたら終わり」になりがちなので余計にボリュームが少なく感じる。
しかし1周クリアまでの体験は濃密。
開放的なステージの殲滅戦、熱く駆け抜けるシナリオ、ロボゲー好きの夢を具現化したような格好いいデザインは他にないもの。
15年前のゲームなのに完全新作をプレイしてる気分になった。これは驚異的なことだと思う。
ロボゲー好きで未プレイなら今からでも手に取る価値はある作品。